培養技術

媒精(体外受精・顕微授精)

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媒精とは卵と精子を出会わせて受精させることです。媒精には通常の体外受精と顕微授精の2通りあります。

体外受精(c-IVF:conventional-IVF)

精子調整後の運動精子が必要数あり、過去に受精障害がない場合は体外受精を行います。体外受精とは、シャーレに入った成熟卵に精子調整によって集めた元気な運動精子をふりかけて受精させる方法です。
体外受精は精子が自分の力で卵に辿り着いて受精するため、自然に近い状態での受精方法と言えます。

図:体外受精

採卵で取れた成熟卵は卵丘細胞に包まれていますが、その卵丘細胞の周りに精子をふりかけると、精子は頭部にある酵素を放出して卵丘細胞を崩しながら進んでいきます。卵に到達した精子が、卵の中へ侵入することで受精が起こります。

Photo:体外受精

顕微授精
(ICSI:intracytoplasmic sperm injection )

精液所見が不良な男性不妊症の方や、通常の体外受精では受精卵が得られない場合に顕微授精を行います。 顕微授精とは、倒立顕微鏡下で精子を高倍率で観察し、状態の良い精子を1つ選んで、細いガラス管(ピペット)を用いて卵の細胞質内に注入して受精させる方法です。

Photo:顕微授精

ピエゾICSI

当院の顕微授精は全症例ピエゾICSIと呼ばれる方法で行っています。従来のICSIは、先端が鋭いピペットを用いて卵に深く押し込んで物理的に透明帯を破り、卵細胞膜を吸引して破膜し、卵細胞質内に精子を注入しているため、卵に対するダメージが懸念されていました。ピエゾICSIは、先端が平坦なピペットを使用し、微細な振動(ピエゾパルス)によって透明帯や卵細胞膜に小さな穴を開け、吸引せずに精子を注入するため、従来のICSIと比較して卵への負担が軽減し、ICSI後の変性率低下も確認されています。当院で2015年からピエゾICSIを導入し、正常受精率の上昇がみられたため、2018年から全症例ピエゾICSIで施行しています。

紡錘体可視装置

卵には紡錘体と呼ばれる細胞小器官が存在します。この紡錘体には染色体が含まれており、染色体の分裂に重要な役割を果たしています。そのため、ICSIを行う際には、この紡錘体を傷つけないことがとても重要です。通常、紡錘体は成熟卵の極体付近に多く存在しますが、中には極体から離れた位置に存在している卵もあります。

Photo:紡錘体可視装置

当院では、紡錘体を傷つけないために、紡錘体可視装置を使用してICSIを行っています。紡錘体可視装置により肉眼では見ることの出来ない紡錘体の位置を確認しながら、傷つけないように顕微授精を行うことが可能になりました。また、紡錘体が確認できない・紡錘体が極体に架かって存在している卵はまだ成熟していない場合があるため、時間を置いてから再度紡錘体を確認しICSIを行います。これにより、受精率をより高めることが期待できます。

卵子活性化処理
(カルシウムイオノフォア処理)

顕微授精を行っても一度も受精しない、または極端に受精率が低いといった受精障害が疑われる場合、顕微授精後に人為的に卵子を活性化することで受精率の改善を図るという方法があります。

通常、成熟卵(MⅡ期卵)は第二減数分裂の中期で分裂が停止しています。精子が卵子内に侵入し、精子内にある卵子活性化因子が卵細胞質内に放出されると、その卵子活性化因子の働きかけにより卵細胞質内のカルシウムイオンが放出され、カルシウムイオン濃度が上昇します。このカルシウムイオン濃度の上昇が引き金となり、卵子の減数分裂が再開します。この一連の流れを卵子の活性化といいます。
しかし、このプロセスに問題があると卵子は減数分裂が再開できず、受精が上手くいきません。
このことが原因で受精障害になっている場合、顕微授精後の卵子活性化処理が有効だと言われています。

卵子活性化処理には様々な方法がありますが、当院ではカルシウムイオノフォア処理というものを行っています。カルシウムイオノフォアという薬剤により卵細胞外のカルシウムイオンを卵細胞内へと取り込み、カルシウムイオン濃度を上昇させることで人為的に卵子の活性化を促す方法です。
当院での適用は、顕微授精による受精障害があると思われる患者さまに医師の方からの提案があった場合に行っています。

※ただし、この方法は受精を促すための方法であり、卵の質の向上のために使用する方法ではありません。

精子活性化処理

精子無力症や精巣内精子採取法(TESE)で回収された精子など、運動精子がほとんど確認できず、その精子が生存しているのか死滅しているのか見た目では判断が難しい場合には、精子活性化処理を行うことがあります。 当院での精子活性化処理はテオフィリンを含む薬剤を使用しており、非運動精子に添加することで精子の運動性が活性化され、生存精子の判別をしやすくしています。

精子膨化試験(HOST)

非運動精子を低浸透圧の溶液に漬けて、精子尾部に膨化がみられるかを顕微鏡下で確認する検査です。精子が生存していると細胞膜が反応し、精子内部に水分が浸透し膨化が起こります。精子活性化処理と同様に非運動精子しか認められない場合に行います。

※精子活性化処理・精子膨化試験を行っても生存精子が見つからない場合は、卵子凍結を行うことがあります。