培養技術

検卵・精子調整

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検卵

採卵は、採卵室で医師と看護師によって行われますが、そのとき培養士は検卵という作業を行っています。「採卵」は医師が極細の採卵針を用いて、卵巣内で育った卵胞から卵胞液を吸引して採取することですが、「検卵」は培養士が顕微鏡下で、採取された卵胞液から卵を探して回収することです。

採卵で採れた卵胞液はスピッツと呼ばれる試験管の中に入っています。採卵をサポートしている看護師からスピッツが培養室へと運ばれてきます。採卵室と培養室は隣接しており、クリーンベンチ内の小窓で繋がっているので、採卵してすぐに検卵作業を行うことができます。

卵は卵丘細胞という細胞に包まれた状態で卵胞液に存在します。培養士は卵を一つも見落とすことがないように顕微鏡下でくまなく探して回収しています。
超音波検査(エコー)では卵胞数は確認できても、実際にその卵胞の中に卵が入っているかは、顕微鏡下で探してみないとわかりません。そのため、採卵前の卵胞の数より採れた個数が減ってしまう場合があります。逆に卵胞が陰に隠れていたり、1つの卵胞から2つ卵が採れたりと、予想していた数より多く採取できる場合もあります。

図:検卵

成熟確認

受精するためには卵が成熟している必要があります。卵が未成熟な状態では媒精(体外受精または顕微授精)しても受精することはありません。卵と精子が最適なタイミングで出会えるよう、当院では、採卵直後に顕微鏡下で極体の有無を調べることで、卵の成熟度を判定しています。

図:成熟確認

採卵から時間が経過して成熟した場合、採卵時に成熟していた卵と比べて体外受精の受精率が低下するため、当院では採卵から3時間以降に成熟した卵には顕微授精を行っています。 未成熟卵は採卵翌日まで体外培養を行い、翌日に成熟していれば顕微授精を行います。採卵翌日の顕微授精は受精率が少し低くなりますが、翌日に成熟した卵で妊娠、出産に至ることもあります。 採取できた貴重な卵ですので、当院では未成熟卵を成熟させるための体外培養の研究に力を注いでおり、少しの可能性も逃さないように大切に育てています。
しかし、卵が採れても、顕微鏡で観察してみたら異常卵である場合もあります。異常卵は妊娠に至らないため、当院では媒精または培養は行いません。異常卵が確認された時点で破棄することになります。

異常卵について

変性卵

卵細胞質が変性している状態です。変性卵は採卵した卵の7%に見られ、年齢の上昇とともに変性卵が採れる確率も高くなります。

Photo:変性卵

単為発生卵

精子と出会わせていないのに卵単体で分割した状態です。単為発生卵は採卵した卵の0.3%に見られます。

Photo:単為発生卵

巨大卵

通常の卵よりも体積が大きい状態です。遺伝子が二倍あると考えられ、受精しても妊娠には至りません。巨大卵は採卵した卵の0.3%に見られます。

Photo:巨大卵

精液検査

精液検査では精液性状・精液量・精子濃度・精子運動率・精子奇形率(形態率)の検査をしています。
精液検査の結果によっては治療方針が変わってくるため、患者さまにはなるべく初診時に検査をしていただいております。

精液検査基準値(WHO 2021年)

項目 下限基準値
精液量 1.4ml
総精子数 3900万
精子濃度 1600万/ml
総運動率 42%
正常形態率 4%

精子形態

図:精子形態

※精液検査の結果は日々変動するため、1回の検査で異常値の場合でも再検査をして問題ないこともあります。また、精液検査では精子の受精能力や精子の質はわかりません。

※禁欲期間(射精しない期間)は2~5日が良いとされており、禁欲日数が長いと精子運動率の低下や奇形率の上昇、短いと精子濃度の減少などの影響が出る可能性があります。

※精液検査結果に異常がある方は当院の男性不妊外来の受診をおすすめしております。

「男性不妊」へ

DFI・ORP 検査

精子DNA断片化検査(DFI検査)

DNAに大きな損傷がある精子の割合(DFI:精子DNA断片化指数)、およびDNAの成熟が不十分な未熟な精子の割合(HDS)を調べる検査です。DFIが高い場合、受精率・胚発生率・妊娠率が低下し、流産率が上昇することが報告されています。また、男性不妊症の方ではHDSが高く、HDSが高い場合は、受精率・妊娠率の低下と流産率の上昇と関連するとの報告があります。
精子濃度や運動率に問題がなくても、DNA断片化率が高い場合は、妊娠率が低下します。
DFI24%以下およびHDS10%以下を正常範囲と判断しています。

精子酸化ストレス検査(ORP検査)

精液中の酸化ストレスの強さを酸化還元電位(ORP)として数値化し測定する検査です。精子DNAに損傷を与える原因として、酸化ストレスが最も多くを占めています。不妊症の男性は、精液中の活性酸素濃度が高く、抗酸化物質の濃度が低い可能性が高いという研究結果があります。
測定結果は100万精子当たりの電位差で表示され、1.34mV未満を正常範囲と判断しています。
酸化ストレスは喫煙、肥満、過度の運動などの生活習慣や精索静脈瘤の有無によって増減すると言われています。精液中の酸化ストレスが高い場合は、酸化ストレスを下げるように生活習慣の改善や、抗酸化作用があるサプリメントの摂取が有効であると報告されています。また、精子濃度や運動率に問題がなくても、DFIやORPが高い場合は自然妊娠率が低いため、人工授精や体外受精へのステップアップをお勧めします。

検査をお勧めする方

  • 精液検査の結果が不良で、その原因がスクリーニング検査(男性不妊外来)で見つからない方
  • 受精率の低い方
  • 胚盤胞到達率の低い方
  • 良好胚が得られない方
  • なかなか妊娠に至らない方
  • 流産を繰り返す方
  • 40歳以上の方
  • 精索静脈瘤がある、またはその手術歴がある方
  • 原因不明不妊の方(タイミング療法・人工授精治療中)

精子調整

人工授精や体外受精を行う際は、患者さまから提出された精液の中から良好な精子を集めるために精子調整を行います。
精子調整を行う前に精液検査を行い、その所見結果から当院では密度勾配遠心法、スイムアップ法を組み合わせて精子調整を行います。

図:密度勾配遠心法

密度勾配遠心法

成熟精子は未成熟精子や死滅精子に比べ密度が高くなっています。密度勾配遠心法ではこの密度の差を利用して、成熟精子を分離させて回収しています。分離液に精液を重層し遠心処理すると成熟した良好な精子が下に沈殿します。

図:スイムアップ法

スイムアップ法

密度勾配遠心法によって回収した成熟精子の中には、運動していない精子や、運動性の弱い精子も混在している状態です。スイムアップ法はその中から元気な運動精子だけを集めて回収する方法です。
密度勾配遠心法によって回収した成熟精子を培養液の下層に重層し、インキュベーター内で30分程度静置します。そうすると運動性のある良好な精子が培養液表面に文字通りスイムアップしてくるため、これを回収します。
回収した精子は精子数のカウント後、媒精(体外受精または顕微授精)に用います。

当院ではスイムアップ後の運動精子数が当院の基準値以上集まれば体外受精、基準値を下回るまたはスイムアップ法の適応にならないほど精子が少ない場合は顕微授精となります。

※受精障害や患者さまのご希望の場合はこれに限りません。